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摩天楼/坂井眞理子

 WTCビルのテロ事件が起こって暫くは本当にテロは憎いと思った。犯人を早く捕まえて、我が愛するニューヨークが早く元気になって欲しい、などと単純に考えていた。しかし、日時がたつに従って、事件は想像を絶する複雑さで世界中を巻き込んでいる。

 テロを起こしたといわれるオサマ・ビン・ラディンという人も、その組織のことも、彼をかくまっているらしいオマールという人物も、彼等の国アフガニスタンのことも私には初めて知る事ばかりで、テレビと新聞に溢れるそれ等の情報に振りまわされるばかりだ。

 そんななかで、アメリカの大統領は「アメリカは不滅である。我々は強いのである。」と拳をふり上げて意気栄んである。
 そして行きつくところは戦争である。テロをよしとする人も国もあるはずがないから、どこの国もこの戦争を表だって反対しない。しかし大方の人は戦争をしたからといって、テロが世界中から撲滅されるとは思っていない。テロを起こす人々の背景にある富に対する不均衡や差別や社会の不合理を知っているからだ。

 ニューヨークのひろこさんがいう。「世界の富の43パーセントがアメリカに集まっているのよ。残りの57パーセントをあまり海外の国が分け合っている。こんなに不公平なことってある。」と。

 私もアフガニスタンという国に多くの難民がいること、地形的にも気候的にも厳しい条件の中で生きていることなどを今度はじめて知ったのだった。そして、アフリカにもアジアにも東欧にも、住む国を追われた難民が大勢いることに、今頃になって気がついたりしている。

 もっともっと多くの不合理を世界の国々が背負っているこを見て見ぬふりをして豊かなアメリカの生活を追っている自分に気付く。

 アフガニスタンという国がどういう国であるかテレビや新聞で知れば知るほど、21世紀に入った今の時代にこんな前近代的な国があったことに驚かされる。女性差別のひどさ、文化の否定、人間として生きる総ての権利が奪われているらしい独裁政治が行われていたと知って愕然としてしまった。日本の戦国時代の頃まで時代が遡ったようだ。 私が40年前ニューヨークに留学して、初めて見て感じて知った日本とアメリカの大きな差。22才の私は日本より富める国も貧しい国のことももちろん知らなかった。そしてアメリカの富んでいる生活をちらりとみただけで戦後17年の日本の貧しさを感じた。
 それから40年もたった今の日本は世界中のどこの国と比べても劣らない豊かな生活が送れる国である。時々、日本人より西欧の人々のほうが恵まれた生活をしてるという人がいるけれど私はとんでもないと思う。文化でも経済でも人間性でも日本は秀れている。

 日本人は優秀だと思ったことがある。それは日本で初めての高層ビルディングがつくられたのが1890年(明治23年)だということである。東京、浅草の12階建ての凌雲閣がそれだ。

 ニューヨーク市での近代ビルの歴史は1889年の10階建てのタワービルからはじまるというから、東京の1890年の12階建て高層ビルというのは驚きである。
 ニューヨークの高層ビルの歴史は割に新しく、エンパイア・ステート・ビル(1931年)を中心に他の高層ビルのほとんどが1930年代以降につくられている。

 高層ビルで有名なニューヨークでさえ、10階建てのビルが建ったのが1889年というその頃、10階建てまでを煉瓦造りで残る2階を木造とした凌雲閣を建てた。英国人のウィリアム・バルトンという人の設計で、高さは60メートルであった。その設計は八角形で建物の中央にエレヴェーターがあったが、安全でないということで使用は認められなかったそうだ。 2階から7階は諸国物産が売られていて、9階と10階は世界各国の風景画を集めた美術館であったというのが素晴らしい。11、12階は展望場である。
 時代の先を行く人が日本にもいた。都市というのはこういう人たちの感性で面白くなっていくのだと思う。 残念ながらこの凌雲閣は関東大震災で大きく被害を受けたため、そのまま残しておくと危険だということで爆破されて解体されたという。

 アフガニスタンにも凌雲閣を建てたような人達で都市がつくられると楽しいのにと考えたりした。

       

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