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2001.横浜トリエンナーレ・レポート/坂井眞理子

 横浜トリエンナーレ2001を見てきた。         10月15日

 パシフィコ展示ホールを入るとすぐのところに、床の上に銀色の紙に包まれたキャンディーを四角に引きつめたアリシア・フラミスの作品がある。金属の作品かと近よってみるとキャンディーであることがわかって誰もが勝手にとって口に入れているのを見て、私も口に入れる。長い道を歩いてきた疲れが甘さで癒されたうえに、ただでもらっちゃったという少し得をした気分とで、いい気分にさせられる。

 この人の作品を私は数年前、ニューヨークのモダンアートでも見たし、昨年はロンドンのどこか忘れたが、大きい展覧会でみた。この時はキャンディーらしい包み紙であったから、すぐキャンディーだとわかりやはり口に入れた。そして2001年9月7日に、横浜トリエンナーレで、この作品のキャンディーを私は食べた。その直後の9月11日にニューヨークの世界貿易センタービルでのテロ事件が起きた。それから1ヶ月たった10月14日のNHKの日曜美術館で横浜トリエンナーレ2001の特集をやっているのを見た。その中でこの作品の前に、小学生から大人まで、大勢の人がこのキャンディーをて手に取って口に入れているのを見たとき私は背筋が寒くなるのを覚えた。不特定多数の人々を巻き込むテロが世界を覆っている時に、作品といえども床の上に無造作に置いてあるキャンディーを、誰も疑問も持たずに食べている。毒を入れようと思えば簡単にできることである。このアリシア・フラミスの作品はかわいい甘さを無償で人に与えて、見る人は幸せをもらうという作品である。ところがこの甘い幻想は9月11日のニューヨークのテロ事件ですっかり打ち砕かれたのである。

 私が横浜トリエンナーレの会場で床に置かれたキャンディーを非常に無邪気に食べた9月7日から10月14日の人々がキャンディーを口にしているテレビを見て、ゾーとしたこの1ヶ月の間の世界の変り様の大きさに私は愕然としたのである。今から先、アメリカが大きく変わるだろうように、現代美術も変わるだろうなという気がしてならない。

       

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